友人Sへの手紙

前略 医者という仕事は、さぞかし激務のことと察するよ。連休前、30年振りに留萌へ行って来た。

中2の時、親父の転勤でおれは留萌へ転校した。クラスの女の子に恋をして、妄想日記を書いたのを覚えているか?よそ者のおれは、ヒーローになりたくて、彼女のことを日記の中で、いろいろな想像を膨らませて描写した。おまえとNとYちゃんは大受けで、おれは一躍ヒーローになった。


でも、翌日からその罪悪感からか、彼女の顔をまともに見るのが辛く、クラスに居られなくなって、休み時間になるとおまえのいる隣のクラスへ逃げん込んで行った。お袋は、見知らぬ土地に馴染めなかったせいか、何度も病気をして入退院を繰り返した。14歳の夏、その寂しさからか、祖母にねだり、さしかわ楽器店で25,000円のヤマハのフォークギターを買ってもらった。おれとおまえは意気投合して、一緒にギターを競い合った。悔しいけど、おまえにいろんなことを教わったかな?



ビートルズを知ったのもその頃。今だから言うけど、UKロックの虜になっていったのもおまえのお陰だ。英語が得意だったおれたちは、歌詞カードを訳して詩の内容を語り合った。ジョン・レノンのLOVEは深かった。そんなことで叶わぬ恋心を紛らわそうとしていたのかもしれない。


中2の夏休みには、図書館で一緒に勉強して「成績が上がったら、もっといいギターを買ってもらおう」と励まし合った。おまえはその頃から医者を目指していたんだよな。二人で悪いこといろいろしていたから、勉強ではおまえにすっかり油断してしまった。



家の裏には留萌川を挟んで山があった。あの裏山を何度も夢で見たよ。そう、二人であの山に登ってギターの練習をした。そして、30数年振りにあの山に登ってみた。近くに橋なんかなくて、子供だった二人はギターを持ってあのローカル線の鉄橋を渡った。あの時と同じように、いつ汽車が来るかもわからないのに、いい大人が渡ったんだ。雲ひとつない青空と初夏の清々しい水色のそよ風がおれの背中を押した。あそこへ立ったら35年前のことが、鮮明に思い出された。青臭い子供達にとって、その危険を冒すことが大人への入り口でもあったのだろうか... バイパスを渡って、山の麓に辿り着いたら脇に獣道があった。確かにあの険しい獣道を二人で楽器を持って登った。気がついたら、皮のブーツだというのに滑りながら急斜面を夢中で登っていた。一歩一歩踏みしめていると、あの時の情景が鮮明に思い出してきた。35年前の獣道とちっとも変わっていなかった。違っていたのは、山の斜面に雪崩止めと思われる金属製の柵があったくらいかな? この山のてっぺんで、二人は草むらに腰を降ろしてちっぽけな街を見下ろしてギターを弾いた。あの頃、まだ子供だったおれたちは、何かを征服したよう気分だった。この歳になって見た留萌の街は、昔の印象とは違っていたよ。あの頃は、『なんて田舎に来てしまったんだろう』と不貞腐れていたけれど、今、見渡すと、夕日に照らされた茜色の小さな街はとても美しかった。おれは、大切なことに気がついていなかったんだ。 30年間も東京で成功を夢見て、『故郷に思いを馳せているようじゃ勝てない』などとわかったふりをしていたのかもしれない。ルーツは、あの裏山にあった。二人とも感傷に浸るタイプじゃなかったけど、そろそろそういうのもいい年齢かなと思ったよ。40代は今日でお別れ。おれは明日、50歳になる。 今度、あの裏山のことを語らないか?                      

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美しく、輝く、輪を求めて。

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