心安まる、一枚の絵。

子供の頃、自宅の暖炉の上に一枚の絵が飾られていた。
 時を経て、父と肩を並べて会話ができる年齢になった。
 ずっと、父に聞いてみたいことがあった。
 「あの絵は?」と私が聞くと、父は応えた。 
「あれは、お前が生まれた年になけなしの安月給で買ったんだ」 
どうってことのない油絵の風景画だった。
 私に損得で人付き合いをする人間になってほしくなくて、
 あの絵のように澄んだ心を持ち続けてほしいという願いを込め、
 名も無い田舎の画家から購入したらしい。
 初めてその話を聞いて、その絵が急に光り輝いて見えてきた。
 何か大切なことを忘れかけていたような気がした。
 それから、私は大人になって一枚のモノクロームの写真を購入した。
 油絵というよりは、モノクロームの世界が自宅の書斎に合っていた。
 何かの記念日ごとに写真、絵画、オブジェを購入し、
 コレクションが増えていった。
 そんなアートの楽しみ方を父が教えてくれた。

ギャラリーヴィグロワ 篠原英智




昨夜は、朝まで仕事をしたためか、夕方からぐっすりとソファで寝てしまった。北国の新緑と雪山の風景に天女が降りてくる夢で目が覚めた。連休には年老いた両親を札幌に残し、また東京での生活がスタートした。やらなければという焦りが募る。 帰省して父に聞いておきたいことがあった。ギャラリーヴィグロワの話を昨年からずっと電話で話をしていて、いつも話しに出てくるあの絵はどれなのか?家にはたくさんの絵が飾ってあるからどれのことを言っているのだろうと思っていた。 このヴィグロワという新しい事業がうまくいくのかどうか?賛否両論だった。この不況の中、アートなんて売れる訳ないという意見が大半だった。 父は違った。僕がまだ1才だった昭和35年、油絵がほしくてミルク代を捻出するのが精一杯だった時代に画商から絵を買ったというのだ。年老いた父は、一気に階段を駆け上がり、もう誰もいなくなった子供部屋に飾ってあるこの絵を指差した。 子供の時からいつも家にあったあの絵だった。なんてこともなく感動もなかった。父は、本当はもう一つ別な絵がほしかったと言う。そちらは、高くて買えなかったらしくずっと悔やんでいたそうだ。我家の歴史にこんなに長い時間居座るぐらいなら、そちらを買っておけば良かったと思うようになったらしい。仕事から帰ってきて絵に囲まれていると心が落ち着くらしい。「時代や経済に関係なく、絵というのはそういう力がある」と父は言った。二人は絵の前でしばらく黙って腕を組み眺めていた。 沈黙が続いた後、子供の頃から僕が無鉄砲にも何かに夢中になる度に反対して説教したあの父が「頑張れ」と一言だけ言った。いつもは、どんなに反対しても言う事を聞かなかった僕を止めても無駄だと思ったのだろうか?僕は、何か沈殿していたヤル気というマグマが噴火口に到達しそうになった。 この気持ちを忘れずに、「心安まる、一枚の絵」というギャラリーヴィグロワのステートメントを書いた。

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美しく、輝く、輪を求めて。

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