素描No.004

何事もなく日常が過ぎ去っていく。



五木田さんの死から、2週間以上が経った。彼が、生と死の狭間を彷徨っていたとき、何かに突き動かされるように僕はこんな寂れた絵を描いていた。理由はわからない。休みの日になると自室に籠って机に向い、ステッドラーの鉛筆をカッターで削る。まるで、硯に墨を摩るように。絵を描き始める前の鉛筆を削るという短い時間が、心を落ち着かせ精神を集中させてくれる。 無意識のうちに生と死を意識していたのかもしれない。そういえば、五木田さんのお通夜から帰って来た日、深夜、寝ているとベッドの脇に誰かが立っている気配がした。僕は、霊感が強いわけでもないけれど、こんな体験は初めてだった。 お通夜から帰って来た時、僕は葬儀場からもらった「清め塩」を使わなかった。仏教では「清め塩」を排除しようという方向へ進んでいると聞く。死者を汚れたものとして塩で追い払うなんてことは僕にはできない。もしも、五木田さんがぼくの自宅まで付いて来たならそれでもいいと思った。 そんなことを思っていたので、本当に訪ねて来てくれたのかもしれない。『お見舞いに行く』と言っていて行かなかったのだから、『なんで、来なかったんだ?』と怨んで出て来ても何も言い返せない。『ごめん!』としか言えない。自分のことに浮かれていたのだから。でも、なぜかその感覚が恐くもなく、懐かしい感じがした。 今回の窓の絵は、潜在意識の中でそういうものが作用して表れてきたのだろうか?見る人によっては、暗くて嫌悪感を感じるかもしれない。今回、自分の誕生日で浮かれていたのに、家ではこんな絵を描いていたことがなんだか偶然ではないような気がした。喜びの裏には、悲しみがある。やはり、全ての偶然は必然なのだろうか?

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美しく、輝く、輪を求めて。

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