風にふかれるままに

30年ぶりに故郷を訪ねてみようと思った。

北国の風は、まだ冷たかった。その風は、石狩湾の潮の流れに乗って、水色に空を染めていた。僕は、その水色の風に導かれて北上の旅に出た。


昨年、フォトグラファーのT氏とアンドリュー・ワイエス展で盛り上がった。その絵は、お互い雪国で育って共感できるものがあった。どこか、乾いて寒々しい寂れた大地。僕は、北海道のどこかでこのような光景を見たことがあるような気がした。『もう、何十年も遠い過去だから、こんな風景は残っていないかもしれない』と思いつつ、どこかで期待を寄せた。


札幌から、石狩湾沿いを車で走らせ、「アンドリュー・ワイエスはどこだ」とつぶやいていた。しばらく行くと、昔懐かしいサイロを見つけた。枯れ草に今にも崩れ落ちそうな廃屋。つい数日まで、大都会で暮らしていたのが嘘のようだ。あまりにも日常で都会を都会と思わなくなっていた今、このような光景を見ると改めて、都市の力強さを感じる。


僕が求めていた、アンドリュー・ワイエスの世界がここにあった。時を超え、朽ちていく物の中に、そこに賑わいがあったのだろうか?目をつぶると、もう誰も住んでいない一軒の家に、子供達の声、晩ご飯の支度をしている炊事の音、犬の鳴き声、海岸から吹き付ける、ピュ〜、ピュ〜とうなり声が聞こえる。


僕は、シャッターを切るたびにため息が出た。

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美しく、輝く、輪を求めて。

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