フラワーアーチストからいただいた、ゴージャスなブーケがだんだんと萎れてきた。
そこで、百合の花だけが生き生きと残っていたので、小さなグラスに挿した。
赤い百合の花言葉は、「虚栄心」。
人は、なぜ虚栄心を持ち合わせているのだろう?他人の虚栄心ほど、見ていて痛々しいものはない。本人は、気づいていないのだろうかと思う。高級なものを身につけていて、自然体な人と見栄を張っている人との違いは明らかに違う。
僕が、33才で独立した頃、バブルが弾けた直後でくる日もくる日も仕事が全くなかった。その頃、ある人の紹介で、同業者のデザイン会社から小さな仕事を下請けのさらに下請けでいただいた。
打ち合わせのため、渋谷のオフィスに待ち合わせの時間の10分前についた。土曜日だったので、オフィスは閉まっており、社長が出社してくる予定だった。
予定の時間になってもまだ誰も来ない。10分経過してもまだ来ない。20分経ってもまだ来ない。時間を間違えたのかと思った。30分経った頃、向こうから真っ赤なオープンカーのポルシェがやって来た。
それが、そこの社長だったのだ。「やあ、待たせてすみません!」と言って、オフィス脇の回転プレートに車を乗せて、立体駐車場に車を入れるところだった。僕は「いい車ですね」と言った。その頃は、その人は自然体だと思った。
ところが、何年か経ってわかったことだが、このパターンの零細企業の社長がなんて多いことか?車種は、ベンツ、ジャガー、BMW、アウディ、ポルシェ...
まず、共通しているのは、時間にちょっと遅れてくること。先にオフィスで待って入れば、車を見せびらかす事ができない。なので、約束の時間に遅れてくるというのがポイント。平日だと、スタッフが対応して、「社長は、ただいま、こちらに向かっているのでもうしばらくお待ちください」とオフィスの中で待たされるので、車を見せる事ができない。
こういうのが、なんて多いことか?単なる偶然か?いや、意図的にやっている。自分を大きく見せるために、相手に舐められないために、上下関係を最初に明確にしておくために。
それが、ビジネスなのだと僕は確信した。まるで、猿の社会のように。知性とか教養とか、仕事の中身で勝負するのではなく、彼らは下等動物なのだ。
態度は紳士的だが「俺とお前は、違うんだぞ」と。
なんて、いやらしい世界なんだと思ったものだ。
考え過ぎだと思われるが、そんなことはない。なぜなら、僕も事業が軌道に乗って、資金に余裕ができた頃、いつの間にか、そのパターンを何度か使った事があるから。でも、あの頃のことを思い出して、自己嫌悪に陥って、それ以来、虚栄心のために車を道具に使わないことにした。
身の程に合った、謙虚さを持っていた方が美しい。
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