開演とともに会場には、ドラムス、ギター、ベースの軽快なリズムと爆音が鳴り響き、真っ赤なライトに照らされ、フラッグを持ったカラーガード4人の後ろ姿がシルエットで浮かび上がる。
O-VILS.のフルメンバーでのステージをやっと生で観ることができた。
「泣いてもいいんだよ」と悪魔が耳元で囁く。じわーっと感動が湧き上がり、両隣の見知らぬ観客に気づかれないようにそっと涙を拭う。
引用:O-VILS. 公式アーカイブ配信 2024年8月23日 東京公演
圧巻は、T-SQUAREの曲、TRUTHのすずかのYDS(電子サックス)イントロから、エンディングまで通しのソロ。そして、全員のスピード感とキレのあるダンス。今までのダンスの振り付けは、過去の構成の組み合わせから成り立っているところがあったが、今回は、次から次へと今まで観たことがないパフォーマンスだった。相変わらず、総監督ゆいなのドラムスは、ずっしりと重く弾丸のようにスピード感がある。今回、初参加のすずかの弟のふうまは、橘で鍛え抜かれただけあってしっかりとO-VILS.に違和感なく溶け込んでいる。ギタリスト、てるのちょっと転調気味で入ってくるスピード感のあるフレーズがとてもいい。また、シングルコイルのリアピックアップ側を使用した、管楽器の張り裂けるサウンドとは真逆の甘いギタートーンが心地良い。ギターソロからちっぴのキーボードも低音から高音へ駆け上がっていくソロもとてもよかった。アフロのファンキーなベースもドラムスと絡み合ってグルーブ感を出し、ダンスのノリをさらに加速させてくれる。
今までのステージは、ほとんどが関西中心なので動画でしか観られなかった。東京池袋グローバルリンクでのイベントが初の目の前で観たライブステージであった。その中でも、ファンだからこその心配事があった。特に心配なのは、あすかとKaoriである。あすかは、2022年7月Vol.3からの参加で、ダンスなしでバックバンドでギタリストのテルのさらに舞台袖の端っこでカメラに写るかどうか照明も当たらない場所での演奏がO-VILS.のデビューである。高校卒業して、まだ3ヶ月位の時期だったと思う。今年に入って、淡路島のイベント「志童和太鼓フェスティバル絆」ではO-VILS.少人数での演奏で出演し、先輩達のサポートもあってか本人が自信を持って力強い演奏しているように見えた。特にUptown Funkのトランペットソロは、最高だった。今では、Mistyではソロを演奏し、Range of 0でのKaoriとのソロの掛け合いなんかは、小さな体から湧き出るトランペットの甲高い咆哮がステージの隅々までを力強く響き渡らせる。さらにTRUTHや007のテーマでのダンスは、小柄な体にも関わらず先輩達に引けを取らないキレのあるパフォーマンスで、今ではO-VILS.の主力メンバーの一人で唯一無二の存在になったのである。
引用:YouTube We are O-VILS. / OVILS STORIES#5 〜We Are O-VILS. Vol.3〜
次に心配なのは、Kaoriである。Kaoriは、2023年3月に高校卒業し、初めて映像で目にしたのは、2023年12月の出雲商業高校吹奏楽部とのコラボだった。Runaway Babyでの曲中ブレイクでは、高校生達にとっては難しかったのかグダグタで、総監督でドラムスのゆいな、カラーガードのAyaka、まふらん、ほのかが強引に引っ張っていき、なんとかその場を凌いだが調子が狂ったKaoriのトロンボーンのソロは最大の見せ場にも関わらず弱々しい演奏だった。
2024年2月FORTUNE FOOD Fes.でのRunaway Babyで、曲中ブレイクでもKaoriはフライングを犯した。ちっぴ、すずか、ふうり、ゆるモわ!は、ちょっと気まずそうに見えた。京都橘高校出身メンバー達は、この辺は完璧なのでイベント後しっかりと指導したと思われる。
引用:YouTube 慶次郎前田
O-VILS. / FORTUNE FOOD FES.(18 Feb, 2024)
10:42 Kaoriのフライングシーン
その後、淡路島で開催された志童和太鼓フェスティバル絆でのコラボでのRunaway Babyは、すずかがブレイク部分をジェスチャーでKaoriにストップをかけ、次の瞬間、ふうりのアイコンタクトでトロンボーンがミスなく入ることができた。これ以降、KaoriはRunaway Babyのブレイクを完璧に演奏するようになった。
引用:YouTube 慶次郎前田
O-VILS. / 志童 和太鼓フェスティバル 2024 ~絆~(25 Feb, 2024)
2年前の公式YuTubeの中、We Are O-VILS. Vol.3のリハーサルで、横山先生からお叱りを受ける場面がある。 久々に高校時代のメンバーに会って、みんな緊張感がなくふざけ合っていて、メンバー達がまったく指示を聞いていなかった。「誰かが引っ張っていかなあかん!それ先生じゃないじゃないか?君らの中の誰かがいつも引っ張って行ったのに」この場面は、印象的だった。珍しくメンバー全員から笑顔が消え真剣な眼差しになっていた。そして、高校時代の忘れかけていたことを思い出したかのようにメンバー達の導火線に火がついた。これが、顧問の先生達の主体性を重視した指導だったのだ。
引用:YouTube We are O-VILS. / OVILS STORIES#5 〜We Are O-VILS. Vol.3〜
出雲商業高校吹奏楽部とのコラボから1年半が経ち、Kaoriはあの時とは別人のような自信に満ち溢れた演奏を披露してくれた。横山先生は、この二人は京都橘高等学校出身者より技術的に劣っていたことは見抜いていたはずだ。でも、O-VILS.のメンバーなら、きっとみんなで引っ張っていくに違いないと思っていたと思う。技術より、その先輩達の指導を素直に受け入れる人間性を買って、将来の主力メンバーに添えることを見込んでいたに違いない。
今では、あの頼りなげだったあすかとKaoriが手強いO-VILS.の先輩達に交じって、主力メンバーの存在なった。そうなるには、O-VILS.の先輩達がこの二人を優しく迎え入れてくれたからに違いないと確信している。その陰の功労者は、橘高等学校吹奏楽部114期~116期が中心メンバーの中、107期で総監督ゆいなと同期の大先輩カラーガードのMieだと思う。プライベートでも後輩達を外へ連れ出し、高校時代のような上下関係が厳しい環境でなく、Mie先輩とは呼ばせず、ミータンと呼ばせている。このMieの後輩達へのリラックスさせる雰囲気作りと愛情と優しさが、演奏でも大きく貢献していることは確かである。僕の中でMieは、慈愛と美に満ち溢れたヴィーナスである。
この二人には厳しい言い方をしたけど、そもそも京都橘高等学校吹奏楽部は別格で、この中に放り込まれただけでもそのレベルに近づくには、大変な苦労をしたと思う。管楽器を口に当てて、飛んだり跳ねたりしながら演奏することがどれだけ大変かと思うと、できなくて当然なのである。よくここまで、厳しい練習についてこれたと思う。
この二人を心の底から応援したくなる理由は、天才プレイヤーという猛獣達の中に放り込まれた小動物に見え、儚くも押しつぶされそうなギリギリのところで、野性の厳しさに鍛え抜かれていくような感じがするのである。横山先生の意図するところは、「獅子の子落とし」のように敢えて谷に突き落とし、這い上がって来た子だけを育てるというな感じなのだろうか?今では、この二人は無くてはならない主力メンバーである。とにかく、この末娘二人は、可愛くて可愛くてしょうがない。
Twilight In Upper Westでは、総監督でドラムス担当のゆいなの電子ピアノとふうりのアルトサックスのソロは、EMCジャズのキースジャレットとヤン・ガルバレクを彷彿とさせる田園風景と夕焼けが似合う抒情的で心に滲みる演奏だった。
橘以外の他校出身で、常に200%全力で圧倒的なパフォーマンスを披露してくれるのがほのかだ。事前のインタビューで「一公演、必ず笑いを取る」と言っていたので、3人のガーズメンバーのシルクソレイユでの演技で、旗を放り投げてしまった時は、「これがその笑いか?」と予定通りの演技かと思った。彼女のキレッキレダンスでは、勢い余って旗が手からすっぽ抜けてしまい、それを拾いに行くとMieとAyakaのフォーメーションを崩してしまうので、ほのかだけ旗なしで演舞を続行した。一部の観客から笑いが起こり、ほのかは人差し指を口にあて、「しーっ!」という仕草をしたので、尚更、意図的にやったのだと思った。後で、SNSで知ったが、これは本気でミスだったようだ。根っからの明るい性格もあって、ミスだとは感じないリカバリーだった。こんなミスも些細な出来事に思える位、ガーズの中では一番スピンのキレとスピード感がある。
引用:O-VILS. 公式アーカイブ配信 2024年8月23日 東京公演
Ayakaファンの僕は、彼女のオーボエにも驚いた。社会人として、仕事をしながら新しいダンスにもチャレンジして、久々の楽器演奏まで披露できるなんて、並大抵の努力ではできることではない。Ayakaは、明るく自然体でみんなを優しく包み込む雰囲気と、情熱を兼ね備えた聖母マリア様のような存在である。(いつかAyaka特集を書きたいけど、本人のみんなが主役という意志を尊重して自粛します)
ジェームズボンドのテーマでは、ちっぴ、ふうり、あすかがガーズメンバーに加わり、楽器を持たずにかっこいいダンスを披露。今までにないチャレンジだった。開演から、ずっと感動しぱなっしで、気を抜く暇もなくあっという間に終盤に近づいてきた。以前は、バックの3ピースがベートベンをハードロック調に演奏していたが、今回は、ちっぴがショルダーキーボードで参加して、4人での演奏だった。ちっぴは、モーツアルトの曲をフルで演奏し、本当にこの人は天才なんだと思った。何より、京都橘高等学校吹奏楽部のパーカス隊は、パーカッションとキーボードを両立できるメンバーの確率が多いような気がする。今回、久々の参加のるいもパーカス隊出身のはずなのにキーボードを完璧に弾きこなしていることに驚いた。そう、忘れていたけど隠れ美少女のるいは、一体何種類の楽器を演奏できるのだろうかと思うほどである。今では音大の大学院まで進学し、打楽器を専門的に学んでいるようだ。SNSでは、「最近、電車の中でオナラをする人が多い。私は、匂いに敏感なので勘弁してほしい」と投稿していて、思わず吹き出してしまった。天才にありがちな、天然気質なのだと思う。総監督のゆいなもピアノも弾けるので、彼女達は絶対音感の持ち主なのだろう。
今回は見どころ満載なので、ゆるモわ!があまり存在感がないように感じていたところへ、「お邪魔じゃカーニバル」のイントロをセンターの段の上でちっぴが演奏し、段から飛び降りステージ脇へと走っていくといきなり曲調が変わり、「残酷な天使のテーゼ」へ移り変わっていく。この時の段から降りる時の腕を振る仕草もちっぴらしく楽しく可愛らしかった。
引用:O-VILS. 公式アーカイブ配信 2024年8月23日 東京公演
水色のワンピースを着て、あの大きな10kg近い重量のある白いスーザフォンを肩に担いでマイクを持って、ゆるモわ!が中央に出てきた。そして、ボーカルとダンスへと移行していく。間奏中には、他のメンバーとキレのあるダンスをシンクロさせて水色のスカートをゆらゆら揺らせてカッコよかった。この時もボーカルのみで演奏はないのにスーザフォンを担いでいるところが、ゆるモわ!のこだわりと、関西人の笑いのセンスがとても好きだ。「チューバとスーザフォンだけは、やりたくない楽器!」と言っていたのに今では、あの白くて大きなとぐろを巻いた楽器が身体と一体となってしまって いるようだ。それにしてもポップス、ロック、ファンキーな音楽でスーザフォンの存在をメジャーにしたのは、ゆるモわ!の功績だと思う。
そして、ゆい、りな、みどり、なつき、お帰りなさい!カラーガードのMitsukiもこの講演後に復帰したようだし、またAyakaとの2トップが見られる。カナダからまふらんが帰ってきて、またカラーガードもパワーアップした姿を見せてくれるだろう。そして、あの天使のようなキラキラの目をした、ユーフォニアム&バリトン担当のはつきが戻ってきてくれることを願うばかりだ。
気がつけば、今回も天使の仮面を被った悪魔に心を持っていかれたのであった。
O-VILS.公式ウェッブサイト
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