幡野 広志

Hiroshi Hatano

海に浮かぶ不思議な建物。

​「海上遺跡」

忙しかった四年間のスタジオ勤務ののち、日本一周の旅に出た。東京を出発し、時計回りに海沿いの道を車で旅した。水平線を眺めているうちに「いにしえの人々も同じ風景を見ていたのだろうか」と遠い時代に思いを馳せることで失った時間を取り戻した気がした。しかし一方、海上で見かけた異様な光景が僕に新しい行動を促した。

 

それは海に浮かぶ不思議な建造物たちだった。観光ガイドにも載らない、寂しい場所だ。二ヶ月の旅を終えて帰京した僕は、あの光景にもう一度会いたくて再び彼の地を巡った。その場所に立ちカメラを構えると、人気(ひとけ)の無い静かな世界が広がる。過去の建築物を撮影しているのに、人間が消えてしまった未来の世界に一人だけタイムスリップしたような不思議な感覚に幾度も遭った。

 

被写体のめずらしさや造形美に惹かれて撮影を始めたが、波の浸食による崩壊や沿岸部の開発や危険防止のための撤去などで、あと何年か経過したら無くなってしまうかもしれないという現実があり、「この景色を記録し、伝えなければ。」という使命感が生まれてきた。それぞれの目的をもってつくられたものたちだが、現在ではその務めを終え、廃墟化しているものがほとんどで、建造された理由を調べると「当時の日本の顔」と「現在の日本の顔」が見えてくる。

 

「戦争」「過疎」「犯罪」「貧困」「資源」「祈祷」。いま僕たちの身の回りで、当たり前に繰り返される「建設」の先に本当に残るものは何だろうか。 幡野 広志

時空を超えた透明感。

次々と生み出されては、廃棄物となっていくものが多い現代において、喧騒の中で戦うことが本当の幸せなのだろうか?そもそも、そんなに新しいモノを人々は求めているのだろうか?そんな疑問を持ち始めたとき、この写真に出会った。これは、現代の産業廃棄物とは違う、人々に置き去りにされた廃墟である。癒しという言葉を良く耳にするようになったけれど、それは、人々が静寂を求めているからだと思う。逆説的に考えると、モノや情報の氾濫が人々にとって苦痛になることもある。この写真を見ていると心が落ち着き、タイムスリップしたような気分になる。風景写真の多くは、その場で出会った感動を映像に残すのは難しい。しかし、幡野の写真は、ファインダーで捉えた映像ではなく、その場に居合わせて肌で感じ取った感覚を写真に収めたように感じる。これらの写真の前に身を置いたとき、時空を超えて吸い込まれるような透明感を誰もが感じることでしょう。 ヴィグロワ  篠原 英智

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