スーパースター

札幌の藻岩山の麓にちざきバラ園というところがある。 多くの品種の中でひと際、目を惹いたのがスーパースターというバラ。


中2の時、ラジオからカーペンターズの「スーパースター」という曲が毎日のように流れていた。夏休みに入る直前のある日のこと。学校から帰ってくると母は庭の手入れをしていた。そこにはバラがあったけど、なんという品種であるか、当時の僕にはまったく興味がなかった。「ただいま〜」っていうと階段を駆け上り自分の部屋に入った。鞄をベッドに放り投げ、真っ先にやることはラジオのスイッチを入れFMを聞くことだった。 当時は、70年代ハードロックの最盛期。ヘビーなサウンドがヒットチャートに上がるという、今では考えられない時代。さしかわ楽器店で買ったヤマハのギターを抱え、荒々しいロックのコードを耳で拾っていくのが楽しみだった。そんな中、カーペンターズの「スーパースター」が流れてきた。ほかの曲とは違い、ゆったりと優しいボーカルに思わず聞き入ってしまった。 後で知ったけど、この原曲は、A Song for Youを書いたレオン・ラッセル。僕が大好きなしわがれボイスのデルタブルースマン。あんなブルージーなミュージシャンがこんな優しい曲を作れることに驚いた。詩の内容はこんな感じ。

   昔、もう遥か昔    私はあなたと恋に落ちた。     2回目のショウの前のこと、    あなたのギターは、とても優しく澄んでいた。    でも、あなたは、本当はここにはいない。    これは、ただのラジオだから。

   覚えている?「ねえ、君のこと好きだよ」って言ったことを。    「また戻ってくるよ」って言ったでしょう?    ねえ、あなた聞いて。    私はあなたを愛してる。本当に愛している。

   孤独はとても悲しいこと。    私は、もうとても待ちきれない。     あなたとまた一緒になりたい。

   どう言ったら、あなたはまた来てくれるのかしら。    また私のもとに戻って、    そして、奏でてください。あなたの悲しいギターの音を。 気がつくと、このバラには夕陽が射し、ちょっとオレンジがかっていた。久々に見下ろした札幌の街はずいぶんと様変わりしていた。「昔、あんたを連れてよくここへ来たのよ」と母は言った。目の前にはあの母が車椅子に乗っていた。何も覚えていない僕は、車椅子のグリップを両手で強く握りしめた。ゆっくりと時が流れていく。僕は『大事な待ち合わせに間に合わない』と時計を気にしつつ、落ち着かなかった。でも、なぜか以前のようにいらいらして「早く、帰ろっ!」と、冷たく言えなかった。

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美しく、輝く、輪を求めて。

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